研究概要 |
精子形成が障害されているヒト精巣では精細管基底膜の特徴的な肥厚が見られる。我々は精子形成と基底膜の状態は深い因果関係にあり、精子形成過程が異常な時、肥厚した基底膜内層にPNA-lectinに結合する糖蛋白があることを示した。この糖蛋白はヒト特異的な造精機能障害のマーカーになると考えられ、また造精機能障害機構の解明に非常に重要であると思われる。初めに考案した糖蛋白同定のためのdifferencial screening systemは、まず造精機能の程度が異なる精巣からサンプルを調整し、糖蛋白のスポットを2次元電気泳動により分離する。そしてlectin affinity blottingとwestern blottingでスポットを確定し、質量分析を行う方法である。その結果、候補の一つは分子量約43kDa,pI5-6のアルブミン様新規蛋白であると思われたが、他に多数候補糖蛋白が見られ、最終的に目的の糖蛋白同定には至らなかった。そこで新たな糖蛋白spot選択基準として、この糖蛋白に結合する物質を探索する中で、細胞生物学的な手法により、肥厚した基底膜にprogesteroneが吸着しやすいこと、さらにこの糖蛋白はprogesteroneと結合することを明らかにした。今後はこの基底膜の性質を利用して、肥厚した基底膜内層の新規糖蛋白を同定する予定である。また、細胞レベルでの糖蛋白発現機構を検討するため、ヒト精巣由来細胞株の樹立を試みた。まず、primary cultureの細胞集団から増殖能の良好な細胞集団を分離し、これらのサンプルに対し、EGFP遺伝子をマーカーとして遺伝子導入方法を検討した。その結果、非感染型のウイルスベクターを用いた方法が導入効率が良いことを明らかにした。今後、この方法を用いて遺伝子を導入し、ヒト精巣由来細胞株を樹立する予定である。
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