研究概要 |
本年度は研究計画に従い実験を進め,以下の結果を得た. (1)ラット精巣における神経成長因子(NGF),低親和性NGF受容体(p75NGF-R),高親和性NGF受容体(Trk)の局在性に関して:ラット(70日令)精巣の凍結超薄切片を作成し,免疫組織化学的染色を行なった.その結果,精母細胞,精細胞にNGF陽性の染色が認められ,セルトリ細胞には微弱ながらp75NGF-Rの陽性の蛍光シグナルが検出された.また,Trk-pan抗体(TrkA,B,Cを認識)による染色でも,微弱な陽性シグナルがセルトリ細胞上に検出された。 (2)培養セルトリ細胞におけるp75NGF-R,Trk(A,B,C)の局在性に関して:高純度セルトリ細胞の培養系を用いて,p75NGF-RとTrksの発現を免疫細胞化学的染色により検討した.Trk-pan抗体により,非常に微弱ではあるが,セルトリ細胞の細胞質に陽性のシグナルを認め,上記組織染色実験の結果がin-vitro培養系でも再確認出来た.しかし,p75NGF-Rについては明瞭な蛍光染色像は得られなかった. (3)セルトリ細胞におけるp75NGF-R,Trk(A,B,C)の発規に対するNOの影響に関して:培養セルトリ細胞をNOC18(NOドナ-,400μM)含有培地で24時間培養した後,セルトリ細胞の可溶性画分,またはtotal RNAサンプルを調製し,Trks,p75NGF-Rのタンパク質とmRNAの発現変動を解析した.その結果,Trk-pan抗体によるウェスタン解析から,主要バンドの146kDaの免疫反応バンドがNO添加によって減少することを認めた.また,p75NGF-R抗体による解析では,76kDaの反応バンドが認められたが,このバンドはNO処理によって僅かではあるが減少した.一方,p75NGF-R,TrkA,TrkBのmRNA発現をRT-PCR解析により確認することできた.この事から,上記のTrk-pan抗体を用いた免疫染色実験で得られたシグナルは,TrkA,TrkB,によるものと考えられる.また,NO処理したセルトリ細胞では,p75NGF-R,TrkBのmRNAが減少している傾向が認められ,ウェスタン解析におけるタンパク質量の変動と矛盾のない結果であった. 以上のことから,精巣上皮細胞(セルトリ細胞)はp75NGF-R,TrkA,TrkBを発現し,これら受容体からのシグナルを介して精子形成の統御に関わっている事,また,精巣での過剰のNO侵襲はこれらの受容体発現に重篤な影響をもたらす可能性が示された.
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