研究概要 |
正常子宮内膜および内膜癌の性ステロイド依存性増殖機序を解析するために、我々はステロイド受容体の機能を調節するといわれる転写共役因子(cofactor)の発現と機能を解析した。我々はまず正常内膜腺上皮におけるcofactorの発現と機能を検討した。正常内膜におけるエストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、SRC-1(steroid receptor coactivator-1)、p300/CBP(p300/CREB binding protein)、SMRT(silencing mediator for retinoid and thyroid-hormone receptor)およびNCoR(nuclear receptor corepressor)の発現を免疫染色で検討した結果、ER/PR、coactivatorであるSRC-1とp300/CBPの発現は、増殖期に強く分泌期に減弱するという周期的パターンを呈したが、corepressorであるNCoRとSMRT発現はほとんどみられなかった。次に我々は正常内膜におけるcoactivatorの機能的な関与を免疫沈降法にて検討した結果、SRC-1は増殖期のERと結合していること、またp300/CBPは性周期を問わずERと結合していることを見出した。これらの結果から、ERとSRC-1およびp300/CBPが特に増殖期に複合体を形成し、増殖期における子宮内膜増殖に深く関与している可能性が示唆された。これらの研究結果はJ Clin Endocr Metab誌88:871-878,2003に掲載された。 次に我々は子宮内膜癌におけるER/PRとcofactorの発現を免検討した。内膜癌においてはER/PRおよびSRC-1およびp300/CBPの発現が正常に比して低下しており、加えてER/PRの発現とSRC-1/p300CBPの発現との間に有意な相関関係は観察されなかった。このER/PRとcoactivatorの発現の乖離が、ERやPRを発現する子宮内膜癌の性ステロイドに対する反応性や感度の低下の原因となっている可能性が強く示唆された。一方内膜増殖症においてはNCoRの発現だけが亢進していた。これらの研究結果の概要はCancer誌98:2207-2213,2003に掲載された。また最近我々は増殖症のプロゲステロン治療によるNCoRの発現増強を見出し、プロゲステロンによる新たな増殖抑制機序として解析中である。
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