研究概要 |
【目的】近年、妊娠母体血中の胎児細胞が、分娩後や中絶後の長期間にわたって存在することが報告されMicrochimerismと呼ばれている。特に甲状腺疾患を引き起こす原因の一つとしてこの現象が報告されている。甲状腺疾患患者の病理組織スライドで胎児細胞が検出されるかいなかを前向き実験として行うための予備実験として組織FISH法の手技の確立と、正常女性や甲状腺疾患患者の血中に胎児DNAが存在するか否かを目的として検討した。【対象】女性の甲状腺組織の病理スライド標本に,X染色体とY染色体に特異的なプローブを用いて組織FISH法を施行した。次に男児を分娩したことのある女性,女児分娩歴の既往しかない、もしくは妊娠歴のない女性それぞれ10名より血液を採取し、得られた血液の血清部分からDNA抽出を行い、このDNAをY染色体に特異的なSRY遺伝子領域のプライマーを用いてTaqman法を利用した定量的PCR法を行い検体1mlあたりのY領域のコピー数を検討した。また、甲状腺疾患を有する患者10名と胞状奇胎妊娠妊婦1名の血液を採取した。【結果】女性の甲状腺組織のスライドではY染色体シグナルを確認した。現在、男児を妊娠していない女性ではSRY遺伝子は検出されなかった。甲状腺疾患患者と胞状奇胎患者の血液よりSRY領域の遺伝子の存在を確認した。【結論】組織FISH法の基礎的手技を確立し、女性の甲状腺組織のスライドにおいてY染色体のシグナルをもつ細胞を確認した。また、正常非妊娠女性では血液中に胎児DNAは検出されないことも判明しMicrochimerismが末梢血には存在しないことが判明した。しかしながら、甲状腺疾患をもつ患者での甲状腺組織および血液中のMicrochimerismの存在が示唆された。
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