研究概要 |
【目的】近年、妊娠母体血中の胎児細胞が、分娩後や中絶後の長期間にわたって存在することが報告されMicrochimerismと呼ばれている。特に甲状腺疾患を引き起こす原因の一つとしてこの現象が報告されている。われわれは甲状腺疾患患者の血中に胎児細胞や胎児DNAが存在するか否かを目的として平成17年度に検討した。【対象と方法】倫理委員会で承認を得た後、甲状腺疾患でフォロー中の患者のうち書面による同意を得た20歳以上の妊娠中でない女性77名を対象とした。患者末梢血6mlを採取し、そこから分離した血清からDNAを抽出した。Microchimerismの指標として、女性には存在しないY染色体に特異的なSRY遺伝子領域のプライマーを用いてTaqman法を利用した定量的PCR法を行い検体1mlあたりのY領域のコピー数を検討した。【結果】77名中72名に男児分娩歴があり7名に輸血歴があった。7名(9.1%)でY領域を含むDNAが検出されDNA量は平均32.72copies/ml(0.039〜202.90copies/ml)であった。その症例の内訳はBasedow病2例、橋本病2例(1例は甲状腺腫瘍を合併)、甲状腺腫1例、甲状腺腫瘍2例(1例は橋本病合併)、甲状腺癌1例で、いずれも男児分娩歴があり輸血歴はなかった。SRY領域を含むDNAが検出された割合を疾患別にみるとBasedow病20.0%(2/10),橋本病11.1%(2/18),甲状腺腫10.0%(1/10),甲状腺腫瘍20.0%(2/10),甲状腺癌2.6%(1/38)であった。【結論】正常非妊娠女性ではほとんどみとめられない血中のMicrochimerismが、甲状腺疾患をもつ患者の一部で存在が確認され、疾患との関連が示唆された。また、現在、甲状腺組織中でのMicrochimerismの検討を行っている。
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