ヒト胎盤におけるシンシチオトロフォブラストの形成過程が膜表面タンパクであるCD98により制御されているかどうか、およびシンシチオトロフォブラスト形成過程とアミノ酸輸送活性に関連があるかどうかをトロフォブラストのシンシチウム化のモデルであるBeWo細胞(forskolin添加によりシンシチウム化が誘導される)を用いて検討した。その結果、1)シンシチウム化に伴ってCD98の発現はmRNAレベル(RT-PCR法)、タンパクレベル(ウエスタンブロット法)共に経時的に上昇していた。2)BeWo細胞をCD98に対するアンチセンスオリゴおよびsmall interfering RNAで処理するとforskolinに対する反応が変化し、CD98蛋白の発現量は低下した。それに伴って、BeWo細胞のシンシチウム化(研究者が開発したフローサイトメーターを用いたシンシチウム化の定量的測定系を用いて測定)は抑制され、シンシチウム化のマーカーであるhuman chorionic gonadotropinの分泌(EIA法)も低下した。3)CD98が関与しているアミノ酸輸送系であるシシテムL、システムy^+Lを介するアミノ酸輸送活性(放射標識されたアミノ酸を基質として非標識アミノ酸を用いた交差阻害実験)はシンシチウム化に伴って上昇した。アンチセンスオリゴで細胞を処理すると、これらの輸送系を介するアミノ酸輸送活性は低下した。これらの結果より、CD98がシンシチオトロフォブラストの形成過程に関与しており、シンシチオトロフォブラストの重要な機能のひとつであるアミノ酸輸送活性はシンシチウム化に伴って上昇することが証明された。すなわち、シンシチオトロフォブラストの形成不全が特徴である妊娠中毒症では子宮内胎児発育遅延を合併することが知られており、得られた結果によりこの二つの病態の関連を説明することが可能である。
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