研究概要 |
我々は既に、卵巣癌特異的プロモーターを導入したoncolytic adenovirus, AdE3-IAI.3Bを作成し、これがin vitroおよびin vivoにおいて卵巣癌特異的に増殖抑性効果を示すことを明かにした(Cancer Research, 2003)。AdE3-IAI.3Bによる治療で問題とされるのは、一時的に腫瘍は消退しても一定期間後にはすべて再発することである。このため、キャリアー細胞としてHT-IIIを用いてAdE3-IAI.3Bを感染させた後、IAI.3B promoter活性の高い卵巣癌細胞株PA-1のヌードマウス皮下腫瘍モデルに投与したところ腫瘍は完全に消失し、再発することはなかった。今回の研究で、キャリアー細胞としてもっとも相応しい細胞を検索するため、約50種類の癌細胞、正常細胞を用いて比較検討した。標的細胞には、アデノウイルス受容体の少ないHEY卵巣癌細胞を用いた。これら細胞のスクリーニングにおいてin vitroにおいて最も良好な増殖抑性効果を示したのは、293、A549、SW626、HT-IIIの順であった。さらに、アデノウイルスの産生量を表すPFU assayを行ったところ、293は2x10^4/cell、A549は1.8x10^4/cell、SW626は5x10^3/cell、HT-IIIは3x10^3/cellであった。アデノウイルスの問題点として、抗体産生による2回目投与以降の感染抑制がある。このため、抗体存在下におけるキャリアー細胞を用いたAdE3-IAI.3Bの増殖抑性効果を検討したところ、AdE3-IAI.3B単独では抗アデノウイルス抗体により感染は完全に抑制されたが、293およびA549にAdE3-IAI.3Bを感染したところ、坑アデノウイルス抗体による感染抑制は完全に取り除かれ、標的細胞をHEYで検討したところそのIC50は293で4000cellであり、A549では3000cellでありむしろ抗体存在下ではA549の方が強い増殖抑性効果を示した。このキャリー細胞による感染抑制解除の機構を検討するため、millicell membrane chamberを用いて検討したところ、0.4umでは増殖抑性効果は認められず、8umでは50%の増殖抑性効果が認められた。このため、キャリー細胞による抗体感染抑制解除の機構には、直接的な細胞間の接触およびcell fragmentによるものが関与していることが示唆された。正常の細胞においても、少数ながら細胞融合が生じることが知られているが、AdE3-IAI.3Bを感染させると293細胞では非感染細胞においては多核細胞が0.5%認められたのに対し、AdE3-IAI.3B感染細胞では2%と40倍の多核細胞が認められ、直接的な細胞融合もキャリアー細胞による抗腫瘍効果に関与していることが示唆された。
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