研究概要 |
我々は既に、卵巣癌特異的プロモーターを導入したoncolytic adenovirus, AdE3-IAI.3Bを作成し、これがin vitroおよびin vivoにおいて卵巣癌特異的に強力な増殖抑性効果を示すことをすでに明かにした(Cancer Research, 2003)。AdE3-IAI.3Bによる治療で問題とされるのは、治療後30日前後に腫瘍は一時的に消退してもさらに2-3週間後にはすべて再発することである。これは、局所の腫瘍にvectorを注射しても急速に全身にvectorが移行してしまい、vectorの局所における停滞率が少なく、停滞時間が短いことが原因と推察される。このため、従来からアデノウイルス産生細胞として知られてきた293細胞、A549細胞をキャリアー細胞として用いてAdE3-IAI.3Bを感染させた後、IAI.3B promoter活性の高い卵巣癌細胞株RMG-1のヌードマウス皮下腫瘍モデルに局所投与したところ両細胞株とも腫瘍は完全に消失し、再発することはなかった。 アデノウイルスの問題点として、抗体産生による2回目投与以降の感染抑制がある。このため、抗体存在下におけるキャリアー細胞を用いたAdE3-IAI.3Bの増殖抑性効果を検討したところ、AdE3-IAI.3B単独では抗アデノウイルス抗体により感染は完全に抑制されたが、293およびA549にAdE3-IAI.3Bを感染したところ、坑アデノウイルス抗体による感染抑制は完全に取り除かれ増殖抑制効果も認められた。このキャリアー細胞による抗体感染抑制解除の機構には、直接的な細胞間の接触およびcell fragmentによるものが関与していることが考えられるため、これを実証するために、抗体存在下でAdE3-IAI.3B感染A549キャリアー細胞を標的卵巣癌細胞株HEYにin vitroにおいて投与し、電子顕微鏡で検討したところ、cell lysisが起こっていないキャリアー細胞では、標的卵巣癌細胞に対し直接的に細胞膜を通してアデノウイルスが感染し、閣内に移行していることが明らかとなった。cell lysisが起こった直後のキャリアー細胞では、アデノウイルス粒子を含んだcell fragmentが細胞内より細胞外に遊離し、細胞内物質により表面がmicrocapsuleのように覆われ、標的細胞に接触した後、アデノウイルスが感染することが明らかとなった。
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