雄性genomeの保存装置である精子核、特にそれを支持している核蛋白の異常が不妊を惹起することが最近の核酸類似蛍光色素acridine orangeを用いた検討で明らかとなり、不妊症の新たな原因としてクローズアップされている。精子核は人体を構成する細胞の中で唯一DNA結合蛋白としてprotamineをもつ特殊な構造を有する。哺乳動物においてpurotamineは精巣内精細管上皮内におけるspermiogenesis過程でhistoneから置換されることにより精子核を形成し、含まれるcysteine残其thiol(-SH)同士が精巣上体内を精子が輸送されていく過程でdisulfide bond (S-S)結合を形成し、より強固な構造を獲得する。げっ歯類の射出成熟精子では核蛋白にhistoneはほとんど消失していることが確認されているが、ヒトでは対照的に核蛋白内にhistoneあるいはprotamineへの移行蛋白が比較的多く含まれており、その構成成分は個体間およびおなじ個体における精子核の間でも異なっており(heterogeity)、雄性genomeを支持する構造としては他の哺乳動物と比較し脆い。従って、造精機能に影響を及ぼす環境因子やlife styleの変化が近未来的にヒトの妊孕能の低下を.さらに促進する可能性があることが示唆される。 今回の研究ではDNA-protamine complexおよびprotamine分子内に存在するS-S結合に着眼し、これらを指標とした精子核成熟性と受精現象との関わりについて調査してきた。開発したdiamide-acridine orange染色法は、精子核chromatinの未成熟性を精子核質的診断の指標とし、sperm-egg fusionが障害されている未成熟精子核を持つ精子を認識できることが判明した。また、疫学調査では、不妊症患者全体の3.7%に精子核の質的異常による受精障害が認められることが判明し、これは一般精液所見が正常な男性においても確認された。Polyacrylamide gel electrophoresisにより未熟精子核を多く含有する症例が受精障害を示すのと共に、抽出された核蛋白にはprotamineを中心とした成熟型の蛋白が減少あるいは欠損していることも示すこともできた。また、flow cytometryも研究手段として確立させ、ヒト体外受精とくにICSIにおいて精子核の成熟性が胚発生と相関することも示唆した。また、検査実行途中精子核DNA断片化も胚発生に直接関与することも予想された。
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