男性側における抗精子抗体の存在は一種の自己免疫疾患とも捉えることができるが、通常この免疫性男性不妊症患者は、難治性の不妊症である以外は全く健康である。今年度はまず、射出精子上に付着する抗精子抗体検出法(direct immunobead test)を用いて抗体保有不妊男性をリクルートし、このうち同意を得た18症例における臨床データを解析した。 すでに我々は、抗精子抗体自身に多様性があることを報告してきたが、コンピューター(computer-aided sperm analysis)による患者の精子運動機能の分析、あるいは体外受精系を用いる患者の精子受精機能を検討した結果、患者により精子の運動あるいは受精機能の障害作用には、著しい多様性の存在することが判明した。すなわち抗体保有男性の不妊発症への関連性には明らかに差が存在し、不妊治療方針の決定に際しては、これらのデータをふまえ慎重に望むべきことを明らかとした。 一方、精子の運動性や受精能と直接関係する精子細胞膜蛋白の同定を目標とし、二次元電気泳動による蛋白泳動を開始した。具体的には等電点電気泳動(IEF)およびSDS-PAGEを行い抗体非保有健康男性の精子蛋白を展開し、泳動後のゲルからニトロセルロース膜へのブロッティングを行い、抗体保有男性の血清を用いる免疫染色により反応シグナルの検出を行っている。抗体非保有男性血清を用いる免疫染色結果を対照として、患者の保有する抗精子抗体が特異的に反応する精子細胞膜蛋白が、今後同定可能であると予想している。
|