1)射出精子に結合する抗精子抗体、特に精子不動化抗体による精子運動障害 男性側における抗精子抗体には多様性がある。射出精子上に付着する抗精子抗体検出法(direct-immunobead test)を用い抗体保有不妊男性における臨床データを解析した。その結果、射出精子に結合する抗体が精子不動化抗体である場合、精子無力症を必発した。 2)抗精子抗体による受精障害の検討 次に抗体保有患者の精子受精機能を検討した結果、射出精子への抗体結合率が高いほど著明な受精障害を呈した。抗精子抗体保有男性において受精障害を予知するcut-off値を約80%に設定可能であった。 3)抗精子抗体による胚発隼障害の検討 雌マウスへから卵子を回収し、補体の存在下にマウス精子を不動化する精子不動化抗体保有不妊女性血清とマウス精子を共培養後、体外受精率ならびに胚盤胞到達率を検討した。その結果、抗体陽性血清添加群における受精率は抗精子抗体による受精障害のため有意に低率であり、受精が成立した場合、その後の胚盤胞への到達率も有意に阻害されていた。 4)精子抗体保有男性における診療指針の考案 男性における抗精子抗体の診療指針は未確立であった。精子細胞膜に結合する抗精子抗体を検出した場合、次に性器管内精子通過性と受精阻害作用の有無を二次的に検討する。これらの結果に基づき、容易に適切な治療法を決定できる診療指針を初めて確立した。 5)精子運動能および受精能を障害する男性側抗精子抗体の対応抗原の同定 等電点電気泳動(IEF)およびSDS-PAGEを行い抗体非保有健康男性の精子蛋白を展開し、泳動後のゲルからニトロセルロース膜へのブロッティングを行い、抗体保有男性の血清を用いる免疫染色により反応シグナルの検出した。得られた複数の患者およびコントロールの血清と反応した精子細胞膜蛋白群をコンピューター分析し、これらのサブトラクションにより両者の差として同定できるシグナルを、患者の保有する抗精子抗体が特異的に反応する精子細胞膜タンパクとして同定した。
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