研究概要 |
近年,癌細胞の浸潤,転移と血管新生の関係が注目されている。エンドスタチンは血管内皮細胞の増殖を特異的に阻害する強力な血管新生抑制因子とし,20kDのタンパク質として単離,精製された.血管新生を抑制する治療法は悪性腫瘍など血管新生を必要とする病的組織のみがターゲットとなり,正常組織には影響が無く,副作用が少ないのが優れた点である. 卵巣癌は最も予後の悪い婦人科悪性腫瘍のひとつである。手術,化学療法を組み合わせた集学的治療が行われているが,その治療成績はいまだに満足できるものではない。特に腹膜播種を呈する例では予後は極めて不良である。そこで,ヒト卵巣癌に対する遺伝子治療による腫瘍休眠療法を現実のものとすべくその基礎実験を着想した。血管新生抑制因子,エンドスタチン遺伝子を卵巣癌に発現させ休眠状態とし,転移を抑制する卵巣癌遺伝子治療の開発が本研究の目的である.他方、卵巣癌における血管新生因子の中心的存在はVEGF(vascular endothelial growth factor:血管内皮増殖因子)である。本年度はまず、卵巣癌症例、良性卵巣腫瘍症例、健常成人の血清中のVEGF値を検討し、卵巣癌の診断に有用か否かの研究を行った。 ヒト卵巣癌症例、良性卵巣腫瘍症例、健常成人の血清中のVEGF値の検討 インフォームドコンセントが得られた卵巣癌症例24例、良性卵巣腫瘍症例23例、健常成人9例の血清中のVEGF値を検討した。その結果、卵巣癌では664.3±486.0pg/mL、良性卵巣腫瘍では307.4±160.4pg/mL、健常成人では311.2±100.9pg/mLであった。また、卵巣癌と良性卵巣腫瘍を鑑別するうえで血清中VEGF値のカットオフ値をもとめたところ380pg/mLがカットオフ値に設定された。これらの結果から血清中VEGF値は、卵巣癌と良性卵巣腫瘍を鑑別するうえで有用であることが示唆された。
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