[目的]卵巣癌における血管新生因子と血管新生抑制因子の動態を観察し臨床の場において応用することを目的とした。[方法]血管新生抑制因子としてエンドスタチンに着目した。異なる種類の婦人科癌でエンドスタチンの発現に差が生ずるかどうかを判定するためにインフォームドコンセントが得られた症例の手術摘出組織のごく一部を用いて次の検討を行った。卵巣癌7例、子宮体癌10例、子宮頸癌3例のごく少量の組織をホモジネートし、その上清中のエンドスタチン濃度をELISA法にて測定した。また、同時に上清中の蛋白濃度をLowry法にて測定し、エンドスタチン濃度を補正した。また、卵巣癌14例、対照4例の血清中のエンドスタチン濃度をELISA法にて測定し、比較検討した。次に、血管新生因子の代表であるVEGF(vascular endothelial growth factor:血管内皮増殖因子)に関して健常人9例、良性卵巣腫瘍23例、悪性卵巣腫瘍24例の術前の血清中のVEGF濃度をELISAにて測定した。[結果]組織中のエンドスタチン濃度は卵巣癌11.3±11.2、子宮体癌11.2±8.2、子宮頸癌4.8±2.3ng/mg・proteinであり、差を認めなかった。卵巣癌および対照の血清中のエンドスタチン濃度は卵巣癌94.9±36.4、対照63.0±17.1ng/mLであり、有意差を認めた。血清VEGF値は健常成人311.2pg/ml、良性卵巣腫瘍307.4pg/ml、悪性卵巣腫瘍664.3pg/mlであり、卵巣癌で有意(p<0.01)に高値であった。また、良性卵巣腫瘍と悪性卵巣腫瘍の血清VEGFカットオフ値は380pg/mlであった。[結論]卵巣腫瘍症例において術前の血清エンドスタチン濃度および血清VEG F濃度を検討することは、術前に悪性卵巣腫瘍を判別する上に診断の一助になり得ると考えられた。
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