研究概要 |
本研究課題はヒトレニン及びアンギオテンシノーゲン(hANG)遺伝子を導入したトランスジェニック動物を用い,妊娠期のみに高血圧を発症するモデル動物を作成し,本モデル動物の胎児-胎盤-母体間のレニン-アンギオテンシン(RAS)系と他の血管作動性物質との相互作用を明確にし,妊娠中毒症(PIH)における高血圧の発症機序を胎児側から理解することを目的とし,平成16年度は本PIHモデル動物のRAS系及び心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の病態生理学的意義を明らかにするために,本モデル動物の妊娠18日目における母体血漿,心臓,腎臓,肝臓及び胎盤のヒトレニン(h-Ren),アンギオテンシンII(ATII並びにANP濃度をラジオイムノアッセイにて定量し,合成系をRT-PCR法により検索した。尚,対照群としてhANG遺伝子導入マウスの雌雄を交配させた妊娠雌マウスを用いた。(1)h-Ren;血漿中h-RenはPIHモデル動物において高濃度(241.4±34.9pg/ml)であったが,対照群では検出されなかった。また,組織内h-RenはPIHモデル動物の胎盤でのみ高濃度に存在し,その他の各臓器及び対照群では検出されず,h-Ren合成系もPIHモデル動物の胎盤でのみ発現が認められた。(2)ATII;血漿ATII濃度は対照群に比べPIHモデル動物で有意に上昇しており,組織内濃度はPIHモデル動物の心臓及び胎盤にて有意に増加していた。(3)ANP;血漿ANP濃度は対照群に比べPIHモデル動物で有意に上昇しており,組織内濃度は対照群に比べPIHモデル動物の心臓にて有意に高値であったが,胎盤では有意な変化は認められなかった。さらに,本合成系もPIHモデル動物の心臓のみにて有意に増加していた。以上の結果から,本モデル動物において胎盤組織内でのRAS系の特異的発現により妊娠末期に高血圧が惹起されることが示唆された。
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