研究概要 |
イノシトールリン脂質代謝系は外的刺激により、細胞膜においてイノシトール3リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DG)を産生する。DGはプロテインキナーゼCの数種のサブタイプを活性化することが知られている。このDGをリン酸化し、フォスファチジン酸(PA)に変換する酵素がジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)である。近年、PAがDNA合成等に関与していることが報告されている。現在神経細胞、線維芽細胞由来培養細胞、リンパ球系細胞についてDGKの細胞内局在の研究が盛んになっている。しかし上皮系細胞とりわけヒトの頭頸部領域における上皮系悪性腫瘍細胞における研究は現段階においてはほとんどなされてこなかった。本研究ではヒト頭頸部悪性腫瘍由来培養細胞からmRNAを抽出し、RT-PCR法によりヒトDGKアイソザイム発現(DGKα,-β,-γ,-δ,-η,-ε,-ζ,-ι,-θ)を検討した。その結果、DGKα,-β,-γ,-η,-ε,-ζが大部分の細胞に発現が認められた。DGKδは上皮由来の細胞では発現が認められなかったが、腎臓由来細胞であるHEK293には発現が認められ、一方DGKβ,-γは上皮由来の細胞では発現が認められたもののHEK293では認められなった。DGKι,-θはその細胞にも発現を認めなかった。細胞増殖に関連すると考えられているDGKζは全ての細胞にその発現が認められたが、HSC-2だけは発現レベルが低い可能性を示唆する結果が得られた。また、DGKζのアミノ基末端側を認識する抗ラットDGKζ抗体の作製を行ない、作製された抗体はラットDGKζを特異的に認識する特異抗体であることが明らかとなった。DGKの細胞増殖への関与を検討した結果、コントロール(DGK inhibitor添加なし)に比較し、DGK inhibitor IおよびIIを10μM添加してH0-1-N-1の培養後の細胞数は約1/2でり、DGKの細胞増殖への関与が考えられた。
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