研究概要 |
本年度は、早々に2つの困難に見舞われた。一つはマウス飼育上のトラブルにて(研究分担者松井)、半年にわたってマウスの供給が途絶えたことである。2005年11月より再びマウスは安定的に供給され、実験を再開した。もう一つはこの間に米国の同様のノックアウトマウス(本研究のものとは独立に作成)を使用する研究室から、聴覚系の異常がほとんど認められない旨の報告がなされたことである(Maison SF, et al., 2005)。 しかし、本年度は2つの進歩があった。一つは昨年度からの懸案であったOAEソフトウェアを改良し、DPOAEがヒトおよび動物において記録できるようになったことである。二つ目は上記を踏まえ、研究の方向性を聴覚系から前庭系へとシフトし、前庭神経節を単離・パッチクランプして活動電位を記録可能となったこと、またDNAアレイを用いて前庭神経節にムスカリン受容体の発現を確認したことである。 今後の展望: 1)ノックアウトマウスとワイルドタイプマウスを用い、音響受傷性(強大音曝露後の聴力障害のレベルの違い)・薬剤易傷性(内耳障害を惹起する薬剤を投与してみて、聴覚障害発生のレベルの違い)の調査を継続している。米国のグループの研究ではムスカリン受容体欠損マウスとワイルドタイプの間に違いは無いという結果であったが、我々の使用するマウスはこれとは独立に作成されたものであるので、必ずしも同じ結果になるとは限らないからである。 前庭神経節細胞におけるムスカリン受容体の存在も確認されたので、まずアセチルコリンによる前庭神経節細胞の興奮性の修飾を調べた上で、ノックアウトマウス・ワイルドタイプマウスにおける神経発火パターンの相違、またイオンチャネル(特にNa・Kチャンネル)の関与の相違を調べる予定である。これにより、ムスカリン受容体が発生の過程においてどのような影響を与えるかを明らかにする。
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