LPS鼓室(中耳腔)投与後の内耳の観察 C57BL/6マウスの中耳腔にlipopolysaccharaide(LPS) (5mg/ml;10μl)を投与後3、6、12、24、48、96、168時間(7日)で中耳腔、蝸牛、内リンパ嚢を含む側頭骨を採取し脱灰後凍結切片を作製し、H & E染色及び免疫組織化学的に検討した(各群3匹)。LPS投与後中耳腔に細胞浸潤が生じた。浸潤細胞数は投与後12時間より顕著となり以後増加し168時間で収束した。浸潤細胞における炎症性サイトカインの発現はIL-1βがLPS投与後12時間から96時間にかけて、IL-6が48時間から7日にかけて、TNF-αは96時間以降に弱く発現した。しかし内耳(蝸牛、内リンパ嚢)においては、炎症細胞の明らかな浸潤はみられず、中耳腔と境界する正円窓膜および周囲蝸牛組織、前庭窓に接する蝸牛組織を含む内耳組織明らかな炎症性サイトカインの発現は観察されなかった。 今回の実験では、鼓室に投与されたLPSが内耳窓を通過して内耳に到達することを期待し、その際の内耳組織の変化を炎症性サイトカイン発現を指標に観察しようと試みた。過去の報告では鼓室に投与されたLPSは正円窓膜を通過して蝸牛に到達するとされる。結果は、LPS鼓室内投与後の内耳における細胞浸潤、炎症性サイトカインの発現はともに明らかでなかった。 前年度までの結果からは、LPS全身投与後の蝸牛外リンパ腔の好中球浸潤が観察され、自然免疫応答機構が蝸牛に存在する可能性を示唆した。一方で、LPS鼓室内投与に対する蝸牛の免疫応答は中耳腔と比較して明らかに弱く、蝸牛の自然免疫応答システムが蝸牛に存在すると積極的に示唆する結果は得られなかった。
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