研究概要 |
1.切断した鼓索神経の再建法と神経再生率の検討 中耳手術中に鼓索神経を切断した症例では、側頭筋筋膜を鼓膜裏面にunderlayで置き、切断された鼓索神経を筋膜上で断端同士を吻合(接合)させるか、断端間にgapが残った場合は切断端がなるべく近づくように筋膜上で断端同士を寄せておくという再建法を行った。 真珠腫性中耳炎の段階手術を行った症例では、約1年後に行う二次手術時に鼓膜の粘膜下層に神経が再生していないか入念に調べた。再手術時の神経再生率は46%(32/69例)であった。 2.再生神経の電子顕微鏡所見 真珠腫性中耳炎の二次手術時に真珠腫が再発していて鼓膜の一部とともに再生した鼓索神経を切除しなければならない場合は、再生神経を剥離し標本として採取した。標本はすぐに固定液に入れ、2日間以上固定する。その後、ゼラチンに包埋して凍結する。クライオスタットで65μmの厚さの凍結切片を作成し、1%オスミウム酸で2時間固定する。その後、昇列アルコールで脱水してエポン812に包埋し、超薄切片を作成。透過電子顕微鏡で神経断面を撮影し、再生した有髄神経線維数をカウントした。再生神経5例の有髄線維数は141本〜1,616本(平均788±590本)であり、正常神経(n=4)の平均線維数である1,911±324本の7.4%〜84.6%であった。 3.神経切断後における味覚機能 鼓索神経切断症例は、術後定期的に電気味覚検査を行い、域値に改善がみられないか調べる。神経切断後、電気味覚検査域値は一旦スケールアウト(測定不能)になるが、早い場合は1年前後で域値の回復が見られる。電気味覚検査で域値の回復が認められ、域値がそれ以上改善しなくなった時点で濾紙ディスク法による味覚検査を行った。電気味覚検査域値が10dB以下、あるいは濾紙ディスク法で4種類の味質のうち最低2種類で濃度5あるいはそれ以下の濃度を認知できた症例を味覚機能回復例とすると、24%(20/85例)の回復率であった。
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