研究概要 |
1.切断された鼓索神経の再建法と再生率 鼓膜の裏側に筋膜をunderlayにしてあてがい、切断された神経の断端同士を吻合(接合)させるか、断端間にgapが残った場合は切断端がなるべく近づくように筋膜上で断端同士を寄せておくという再建法を行った。その結果、真珠腫性中耳炎の段階手術を行った二次手術時に、鼓膜の粘膜下層に鼓索神経が再生していた率は46%(33/71例)であった。 2.神経切断後における味覚機能 鼓索神経切断症例は、術後定期的に電気味覚検査を行った。電気味覚検査域値が10dB以下、あるいは濾紙ディスク法で4種類の味質のうち最低2種類で濃度5あるいはそれ以下の濃度を認知できた症例を味覚機能回復例とすると、全体では24%(21/87例)の回復率であった。また、鼓索神経の再生を確認できた33例における味覚機能を検討したところ、61%(20/33例)において味覚機能を有していることが判明した。 3.茸状乳頭形態の検討 鼓索神経の再生が確認され、味覚機能も回復した症例で、茸状乳頭が再生するかどうかをデジタル顕微鏡で観察し、茸状乳頭の分布を次の3つに分類した。1.乳頭の分布に左右差なし,2.左右差あり,3.乳頭の完全消失。味覚が回復した35例においては、1.が31%、2.が69%であった。一方、味覚が回復しなかった87例では、2.が61%,3.が39%であった。すなわち、鼓索神経切断後、茸状乳頭が完全に萎縮、消失せずに再生する症例はかなり多いと考えられる。 以上の結果から、中耳手術中に鼓索神経が切断されても、神経は再生して末梢味覚受容器である茸状乳頭まで到達し、茸状乳頭が再生すること、そして味覚機能を再獲得することが証明された。
|