研究概要 |
SCC抗原はKatoらにより1977年に子宮頸部の扁平上皮癌から分離されたタンパクである。以来Radioimmunoassay法による血清SCC抗原の測定は子宮、食道、頭頸部などの扁平上皮癌の腫瘍マーカーとして広く用いられているが、その血清値上昇の分子生物学的メカニズムは不明である。1991年にSCC AntigenのcDNAがクローニングされ、SCC AntigenがSerine Protease Inhibitorであることがわかった。癌に対しては一般的に、各種Proteaseは癌浸潤を促進し、proteaseを抑制するprotease inhibitorは癌のプログレッションに対しては抑制的に働くと考えられる。Serine Protease InhibitorであるSCC抗原が癌細胞が分泌する腫瘍マーカーであるとすれば、癌細胞自身にとっては生物学的に不利なはずである。われわれは頭頸部扁平上皮癌由来の培養細胞株にSCCA1 cDNAを形質導入し、その増殖能、浸潤能の変化について解析した。SCCA1発現株はin vitroでの増殖能に変化は見られなかったもののin vitro, in vivo浸潤能が抑制されていた。 さらに臨床的に前癌病変と考えられている鼻・副鼻腔乳頭腫におけるSCCA1の発現、及び血清SCC抗原測定の臨床的意義について検討を行った。鼻・副鼻腔乳頭腫症例において血清SCC抗原は上昇しており、乳頭腫の腫瘍マーカーとして有用と思われた。また、乳頭腫から生じたと考えられる癌部においてSCCA1の発現が低下している事より、SCCA1は癌細胞そのものに対しては抑制的に作用することが考えられた。
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