過去の我々の研究において、末梢運動単位における筋レベル、運動神経細胞レベルで遺伝子治療の効果が確認されたが、この期間においては遺伝子治療が運動神経損傷の治療において、どの程度運動機能の回復に寄与するかを評価する研究を開始した。今年度はまず、レポーター遺伝子を用いた実験を行なった。 方法 レポーター遺伝子であるLacZ遺伝子を含む組み換えアデノウイルスベクター(AxCAiLacZ)を作製した。次にS-Dラットを用い、反回神経を止血鉗子で30秒間圧迫し、神経挫滅モデルを作成した。その後に挫滅部位の神経線維に、卵母細胞用注入針および注入器を用いてAxCAiLacZを含む溶液を注射した。ベクター投与後、4-7日後に投与部位および運動神経細胞等の各部位における遺伝子発現を、X-gal染色にて観察した。 結果 X-gal染色にて、ベクター注入部位である反回神経束にLacZ陽性所見が観察され、神経線維束に外来遺伝子が発現していることが確認された。さらに疑核において運動神経細胞にもLacZ陽性所見が観察された。この所見は、神経束のベクター注入部位から、逆行性軸索流にのって、運動神経細胞体に到達したアデノウイルスベクターにより導入された外来遺伝子が発現している所見と考えられた。 今後の展開 レポーター遺伝子の実験により、反回神経束にアデノウイルスベクタ-を注射することにより、疑核の運動神経細胞に遺伝子導入可能であることが、示された。現在治療遺伝子としてGDNF遺伝子を搭載したアデノウイルスベクターを、挫滅した反回神経束に注射し、神経伝導速度、軸索に有髄化度、声帯運動回復度を評価する実験を施行中である。
|