本研究期間においては、遺伝子治療が運動神経損傷の治療において、どの程度運動機能の回復に寄与するかを評価する研究を行なったが、平成15年度は、レポーター遺伝子を用いた実験を行なった。ベクター注入部位である反回神経束や、疑核運動神経細胞にもレポーター遺伝子発現陽性所見が観察された。この所見は、神経束のベクター注入部位から、逆行性軸索流にのって、運動神経細胞体に到達したアデノウイルスベクターにより導入された外来遺伝子が発現している所見と考えられた。この結果を踏まえ、平成16年度は治療遺伝子であるGDNF遺伝子を搭載したアデノウイルスベクターを、反回神経束や筋に注射し、遺伝子治療がどの程度喉頭機能回復に寄与するか評価した。 ラットの反回神経を、止血鉗子で数十秒間圧迫し、神経挫滅モデルを作成した。その後に挫滅部位の神経線維にGDNF遺伝子を搭載したベクターを導入した。挫滅部位の神経線維、延髄疑核の運動神経細胞への遺伝子導入をRT-PCFや免疫染色を用い確認した。遺伝子治療効果は、反回神経伝導速度を誘発筋電図の異なる刺激部位の潜時差から計算し、さらにその時点での声帯可動性も観察することにより行った。 GDNF遺伝子を搭載したアデノウイルスベクターを神経束に注入した後、GDNFの疑核での発現をRT-PCRで確認した。治療効果は、遺伝子導入後2週、4週の時点でGDNF遺伝子導入群はコントロール群に比べ有意に早い神経伝導速度を示した。声帯運動の回復度に関しても、遺伝子導入後2週、4週の時点でコントロール群がそれぞれ12.5%、37.5%であるのに対し、GDNF遺伝子導入群では2週後、4週後共に100%であり、有意な声帯運動回復促進効果を示した。
|