癌抑制遺伝子産物の一っであるp53蛋白(p53)は、正常細胞での半減期は短いが、DNA障害などの発癌ストレスがかかった際に安定化し、細胞増殖停止やアポトーシスを誘導する。本研究の目的は、ヒトパピローマウイルス16型のE7領域(HPV16E7)を強制発現させた培養ヒト頭頸部上皮細胞(16E7-HLECs)におけるp53の機能を調べることにあった。 16E7-HLECsにおけるp53の発現レベルは培養正常頭頸部上皮細胞(nHLECs)と比較すると、その半減期の延長とともに2倍〜4倍となっており、HPV16E7がp53の正常なターンオーバーを妨げる可能性が示唆された。一方、検討したp53ターゲット遺伝子の転写は16E7-HLECsにおいて変化がみられず、安定化したp53は転写因子としては16E7-HLECs内でいまだに不活性の状態であることが示唆された。しかしながら、16E7-HLECsはnHLECsと比較し、Fas受容体を介したアポトーシス(このアポトーシスはp53依存性であることが報告されている)に対する感受性は亢進していた。これらの結果を考え合わせ、今回の研究ではHPV16E7発現細胞における安定化したp53が正常に機能しているかどうかを確実に結論づけることはできなかった。
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