胎生期マウスの内耳にみられるTunel陽性死細胞は、光学顕微鏡(光顕)レベルの核形態からapoptotic dying cell(ADC)とnon-apoptotic dying cell(NADC)に分類できる。我々の今回の研究でコントロール群の内耳全体の総死細胞の内、ADCは約90%、NADCは約10%存在することが明らかになった。マウス母体腹腔に内耳毒であるシスプラチン(CDDP)を投与した時、胎生期マウス内耳の総死細胞数は変化を示さずADCは約70%、NADCは約30%と変化を示すことが判明した。Clarke(1990年)の報告した発生期死細胞電子顕微鏡(電顕)分類によると死細胞にはtype1、2、3が存在し、type1はアポトーシス、type2は自己貧食性細胞死、type3はネクローシスであると記載されている。我々の胎生期マウスの検体の光顕レベルでADCと判定された細胞のほとんどが、type1であることが判明した。NADCはtype1でない(no-type1細胞)ことは判定できるが、それ以上の詳細な検討は不可能であった。そこで平成16年度はno-type1細胞の詳細な分類をTunel染色後光顕および電顕で検討した。コントロール群のNADCはtype2であり、type3は含んでいなかったこの結果はCDDP負荷を行っても変わらなかった。また、type1細胞は隣接細胞に貧食処理され、マクロファージの関与は少ないと考えられた。以上の結果より胎生期内耳に何らかの原因で死細胞が過度に出現し、形態異常を来たしてしまう可能性がある時、死細胞の数は変えずADCとNADCの比率を変え、生体調整をおこっている可能性がある。またtype2細胞もtype1細胞と同様なプログラム細胞死細胞と考えられた。現在胎生期組織の検討を行うため、生後の聴覚機能に関して詳細な検討は行われていない。今後ADC/NADCの違いによる聴覚などの生理機能に差がないか更に詳しく調べて行きたい。
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