研究概要 |
本研究では糖尿病網膜症(以下、網膜症)の発症、進展、視力低下をおこしやすい患者をなるべく早期に発見する臨床システム確立を目指した。網膜症の病態、病像、重症度を統計処理できるように眼底所見を網膜症重症度国際分類によりデータベース化し、重症度を定量化するシステムを確立した。これに基づいて糖尿病患者の網膜症の発症、進展に関連する因子をデータベースを用いて解析した。山形大学医学部倫理委員会の承認されたプロトコールで網膜症患者の眼科手術の際に採取した眼内液において網膜症の病態、発症、進展、視力低下に関連がある可能性のある生理活性物質(8-OHdG、IL-6、VEGF、NOx)の濃度を測定した。IL-6、VEGF、8-OHdG,NOxが網膜症の重症度と関連がみられた。すなわち網膜症の重症度には血管障害に関連するIL-6,VEGF眼内濃度が関連していた。また、酸化ストレスの指標である8-OHdG,NOxも網膜症の重症度と関連が見られた。網膜症患者の血液よりの白血球からゲノムDNAを抽出し、網膜症発症、進展に関連のある候補遺伝子多型解析をおこなった。遺伝子としては前項で最も網膜症の血管障害と関連のあったVEGF遺伝子のSNPについて検討した。遺伝子多型としては有意な結果を得ることはできなかった。糖尿病網膜症の発症、進展を予測する因子としては従来いわれている全身因子としての血糖、血圧、高脂血症に加えて、眼内因子として眼内IL-6、VEGF、8-OHdG,NOx濃度があげられることが本研究で明らかになった。しかし、本研究では遺伝子多型により網膜症発症、進展の予測のスキーム構築はできなかった。
|