我々は、エレクトロポレーションにて硝子体内に注入したヒートショックプロテインを生体の網膜神経節細胞に導入し、網膜の虚血によるアポトーシスを抑制することを、報告した(Invest ophthalmol Vis Sci、2001)。このことから遺伝子の導入も可能なのではないかと思われ、brain derived neurotorophic factor(BDNF)の遺伝子を同様の手技で、ラットの網膜神経節細胞に導入し、その効果に関して検討した。導入されたBDNF遺伝子は神経節細胞内で発現し、対照と比較して、多くのBDNFタンパクの発現が認められた。またこのラットの眼球を虚血することによりアポトーシスを生じさせてみると対照と比較し、より多くの神経節細胞の生存が確認され、アポトーシスを起こした細胞は存在はするものの少数であり、この手技にて神経保護因子の遺伝子の網膜内への導入の可能性が示唆された。 この手技を行うことに対してより効率の良い条件を検討するため、エレクトロポレーション自体による網膜障害に関して検討した。電気パルスの刺激条件を10、20、30、40、50V/cmとし、刺激時間を99ms、一回刺激を行い形態学的、網膜の機能をERGを用いて生理学的に観察した。刺激強度40V/cm以上では角膜に熱障害の所見が見られた。また刺激強度20V/cm以上ではERGのa波、b波の振幅が、有意に低下していた。このことから、エレクトロポレーションの条件として少なくとも20V/cm以下の強度で行う必要があると考えられた。
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