虹彩による視細胞の機能再生および胚性幹細胞による網膜色素上皮細胞の機能再生

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15591851
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 春田 雅俊 京都大学, 医学研究科, 助手 (90359802)
• 研究分担者: 影山 龍一郎 京都大学, ウィルス研究所, 教授 (80224369) ; 高橋 政代 京都大学, 医学研究科, 助教授 (80252443)
• キーワード: 胚性幹細胞 / 網膜色素上皮 / 分化誘導 / 網膜移植 / 網膜再生 / RCSラット / 加齢性黄斑変性 / 網膜色素変性

研究概要

緒言=哺乳類の初期胚に由来する胚性幹細胞embryonic stem cells (ES細胞)は未分化な状態を維持して培養することが可能で、ほぼすべての組織に分化できる全能性幹細胞である。今回、霊長類ES細胞から分化誘導した色素上皮細胞が、網膜色素上皮の特徴や機能を有しているかを検討した。
方法:サルES細胞をPA6ストローマ細胞と共培養して色素上皮細胞を分化誘導した。これらの色素上皮細胞を選択的に細胞シートとして増幅し、光顕および電顕にて観察した。RT-PCR法、ウェスタンブロット法、免疫細胞化学的手法を用いて網膜色素上皮に特有なマーカーの発現を確認した。また蛍光標識したES細胞由来の色素上皮細胞を4週齢RCSラット(網膜色素上皮の機能障害モデル動物)の網膜下腔に移植した。移植8週後に視運動性反射を利用した行動実験を行い、網膜切片を作成して宿主視細胞の評価を行った。宿主ラットには免疫抑制剤を飲用水に加えて投与した。
結果:サルES細胞由来の色素上皮細胞は色素に富んだ六角形の細胞形態をしており、網膜色素上皮に特有なマーカーを複数発現していた。電顕による観察では多数の色素顆粒と微絨毛があり、ビーズ貧色能も有していた。サルES細胞由来の色素上皮細胞を移植したRCSラットでは宿主の視細胞変性が有意に救済され、その移植効果は行動実験と免疫組織化学的手法により確認された。
考察=サルES細胞由来の色素上皮細胞は形態的にも機能的にも正常の網膜色素上皮細胞の性質を備えている。ヒトとサルのES細胞は性質が類似していることから、この分化誘導方法は将来ヒトES細胞にも適用できることが期待される。ヒトES細胞からも同様にして色素上皮細胞が分化誘導できれば加齢性黄斑変性や一部の網膜色素変性に対して無尽蔵の細胞移植源として臨床応用できる可能性があると考える。

研究成果

• [文献書誌] Akagi T, Haruta M, et al.: "Different characteristics of rat retinal progenitor cells from different culture periods"Neurosci Lett.. 341. 213-216 (2003)
• [文献書誌] Ooto S, Haruta M, et al.: "Induction of the differentiation of lentoids from primate embryonic stem cells"Invest Ophthalmol Vis Sci.. 44. 2689-2693 (2003)
• [文献書誌] Haruta M, Sasai Y, et al.: "In vitro and in vivo characterization of pigment epithelial cells differentiated from primate embryonic stem cells"Invest Ophthalmol Vis Sci.. 45. 102-1025 (2004)
• [文献書誌] Amemiya K, Haruta M, et al.: "Adult human retinal pigment epithelial cells capable of differentiating into neurons"Biochem Biophys Res Commun.. (In Press).
• [文献書誌] 春田 雅俊: "神経幹細胞移植による網膜再生"眼科診療プラクティス. 91. 48-54 (2004)
• [文献書誌] 春田 雅俊: "胚性幹細胞"眼科診療プラクティス. 91. 112-113 (2004)
• [文献書誌] Kosaka M, Sun G, Haruta M, Takahashi M: "Adult stem cells"Multipotentiality of iris pigment epithelial cells in vertebrate eye. 16 (2004)