研究概要 |
糖尿病黄斑浮腫の発症に関与する分子を蛋白質レベルで網羅的に明らかにするため、糖尿病黄斑浮腫症例の硝子体プロテオーム解析をおこない、発現が優位に上昇または低下している蛋白質の同定、定量をおこなった。chemical mediatorが蓄積していると推測される黄斑部網膜の直上で一定量(約0.5ml)の硝子体液採取をおこなった。16眼から検体を採取することができた。各検体につき、蛋白濃度の測定をおこなったところ、1435.8±337.5μg/mlであった。これは、対照とした黄斑浮腫を有さない前増殖糖尿病網膜症の966.7±216.8μg/mlよりも有意に上昇していた(p=0.05)。蛋白量が15μgとなるようにサンプルを調整し、二次元電気泳動により分離した。SYPRO Ruby染色によりプロテオームの可視化をおこない、ゲル上で対照群との比較し、黄斑浮腫検体に特異的に発現しているスポット、著しい発現の増減がみられるスポットの検出を試みた。PD-Quest(BIO-RAD)で2倍以上の吸光度差がでたものを検出すると、8個は糖尿病黄斑浮腫群で有意に上昇し、1個は減少していた。これらのスポットを切り出し、ゲル内消化して蛋白質を抽出し、質量分析をおこなった結果、上昇を示したものとしてPEDF, ApoA-4,ApoA-1,Trip-11,PRBP, VDBPの6つの蛋白質が、減少を示した蛋白質としてApo-Hが同定された。このうちPEDFに関し、ELISA法にて定量し、対象群と比較をおこなったところ、非糖尿病黄斑浮腫群では0.83+/-0.60μg/mlであったのに対し、糖尿病黄斑浮腫群では2.03+/-0.50μg/mlと有意に上昇していた(p=0.02)。糖尿病黄斑浮腫におけるこれらの蛋白の正確な役割は未だ不明であるが、脂質輸送に関与する蛋白質が多く見られ、その他、新生血管の抑制因子も含まれていたことは興味深い結果である。
|