研究課題
基盤研究(C)
糖尿病網膜症による視力障害の主因は血管透過性亢進を軸とした黄斑浮腫と、血管閉塞に基づく新生血管を軸とした増殖性病変である。これらの病態に深く関わるサイトカインが血管内皮増殖因子(VEGF=血管透過性因子:VPF)である。我々は過去に、VEGFの作用発現には単にVEGFの発現量ばかりでなく、内皮細胞でのVEGF受容体(KDR)の発現量が重要であることを示し、さらにその発現は転写因子Sp1によって正に制御されていることを証明した。今回更に、臨床でインスリン抵抗性改善薬として用いられているPPARgamma作動薬が、Sp1のKDR遺伝子プロモーター領域への結合を阻害することによって、KDR遺伝子の発現を阻害することを明らかにした。このことは、PPARgamma作動薬の血糖コントロール作用による網膜症進行防止効果はもとより、網膜血管内皮細胞に直接働きかけることによってVEGFとその受容体システムを阻害することによる網膜症治療薬としての可能性を示唆するものである。また黄斑浮腫の病態形成には単に網膜内の病的変化ばかりでなく、硝子体による機械的牽引なども重要であると考えられているがその機序は不明であった。我々は硝子体中に存在するマクロファージ系細胞である硝子体細胞が、糖尿病眼の硝子体中で濃度亢進する血小板由来増殖因子(PDGF)の作用で増殖・遊走・ゲル収縮能を獲得し、さらにゲル収縮能は形質転換因子beta(TGF-beta)によって著明に促進されることを明らかにした。硝子体細胞によるゲル収縮作用にはRho-kinaseが重要な役割を果たしており、眼科領域ではまだ臨床応用に至っていないRho-kinase阻害剤によって、硝子体細胞の筋線維芽細胞への形質転換や収縮のシグナルを有意に抑制しうることを明らかにし、未だ確立していない網膜症に対する薬物療法の可能性を示した。
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