昨年までの研究で、マウスに作成した増殖硝子体網膜症モデルでの網膜色素上皮細胞の上皮・間葉系移行による線維化はSmad3欠損マウスでは抑制されることから、本症にTGFbeta/Smad3シグナルが関与していることを報告した。一方、同様の上皮・間葉系移行による組織線維化を来す病態として水晶体の損傷後の治癒過程が挙げられる。マウスではこの創傷モデルは上皮・間葉系移行の簡便な検討モデルであるので、アデノウイルスベクターによる抑制性Smad(Smad7)遺伝子導入が上皮・間葉系移行をin vivoで抑制するかどうかを予備的に検討した。この結果、Smad7遺伝子導入は水晶体上皮細胞の上皮・間葉系移行を阻害した。これを受けてマウス増殖硝子体網膜症モデルでのSmad7遺伝子導入を行ったところ、剥離網膜下の線維組織の形成はSmad7導入で著明に抑制された。このことは今後の臨床での増殖硝子体網膜症治療の標的としてTGFbeta/Smad3シグナルが挙げられることを示す。一方、TGFbeta由来の非Smad3シグナルも増殖硝子体網膜症の発症に関与していると考えられるが、その中でもp38 MAPキナーゼ系に注目した。p38 MAPキナーゼ阻害薬はSmadシグナルを間接的に阻害し、培養網膜色素上皮細胞株ARPE-19の細胞外マトリックス発現や細胞の運動を抑制し、殖硝子体網膜症の発症にp38 MAPキナーゼ系も関与している可能性が示唆された。そこで増殖硝子体網膜症モデルにdominan-negative p38 MAPキナーゼ遺伝子をアデノウイルスベクターで導入し、その線維化の抑制効果の有無を検討した。その結果、dominan-negative p38 MAPキナーゼ遺伝子もマウスに作成した増殖硝子体網膜症モデルに対する治療効果を発揮した。
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