研究課題
これまでの本研究課題で、マウス増殖硝子体網膜症モデルでの網膜色素上皮細胞の上皮・間葉系移行や水晶体の損傷後の上皮細胞の治癒過程での上皮・間葉系移行は、TGFベータ・Smad系で調節されていることを報告してきた。アデノウイルスベクターによる抑制性Smad(Smad7)遺伝子導入が上皮・間葉系移行をin vivoで抑制することも報告した。本年度は、Smad系を抑制する他の分子としてBMP-1、Id2、Id3の遺伝子導入でもSmad7遺伝子導入と同様の効果が得られるものの、その効果はSmad7を超えるものではなかった。BMP-7遺伝子導入でId2、Id3の発現が上昇することから、BMP-7の効果にはIdの誘導を介する機序が存在すると考えられた。逆に水晶体上皮では、Id遺伝子導入がBMP-1を誘導したが、線維芽細胞ではそのような効果は観察さなかった。一方、各種成長因子由来のシグナル伝達(MAPキナーゼ、JNK、p38)は、Smad2/3の分子内の異なる部分(middle linker)のリン酸化を介して、SmadのC末端リン酸化による活性化をさらに調節することが報告されつつあるので、独自にSmad2およびSmad3のmiddle linkerのリン酸化を特異的に認識する家兎多クローン抗体を作成した。BMP-7遺伝子導入では、middle linkerのリン酸化が高進していたが、Id遺伝子導入ではそれは観察されなかった。腫瘍壊死因子アルファ(TNFa)は、炎症性サイトカインであるばかりでなく、in vitroではTGFベータに拮抗することが知られているが、マウスを用いた眼線維化モデルでは、TNFa欠損で炎症や線維化が高進することを見いだし、従来から考えられていたin vivoでのTNFaの役割とは異なる新しい側面を解明できた。このTNFa欠損によう表現系形は、正常骨髄の移植とSmad7遺伝子導入で改善したことから、主として炎症細胞でのTNFa欠損が表現形に関与し、それはSmad7遺伝子導入の効果から考えて、Smad系の高進によると考えられた。
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