外科的に切除した眼表面扁平上皮癌の組織病理学的および免疫組織化学的検討を行った。細胞のトランスフォーミング成長因子ベータのシグナルの中でも、Smadシグナル伝達の状態を各種Smadに対する抗体、リン酸化Smadに対する抗体を用いて検討した。 その結果、扁平上皮癌ではトランスフォーミング成長因子ベータ受容体発現は正常の角膜上皮と比較して亢進しているが、同時にSmad7の発現が亢進していた。リン酸化Smad2およびSmad3の核内への以降は観察されなかった。これらの所見はマウスを用いた正常角膜上皮の創傷治癒過程でのトランスフォーミング成長因子ベータのシグナルの状態に類似していた。すなわち正常では適度なSmadシグナルが細胞の分化に関与していると考えられるが、活性化の上昇した上皮細胞では、受容体発現亢進によるSmad7の誘導がSmadシグナルを遮断していると考えられた。一方、細胞の増殖に関与すると考えられるMAPキナーゼ・Erkシグナルは表面扁平上皮癌で亢進していた。転写因子AP-1を介した細胞増殖促進機構の存在が示唆された。異型性上皮では、マイトマイシン治療後にAP-1発現や腫瘍増殖に関与するhepatocyte growth factor受容体であるc-Metの発現減弱が確認でき、治療効果判定の一助になりうると同時に効果発現の機序解明にも繋がると予想された。動物実験では、C57/BL6バックグラウンドのXPCノックアウトマウス眼部にDMBAを反復投与して、上皮性腫瘍を誘発させることができた。免疫組織病理的観察で、ヒト同様にSmadシグナルの減弱とMAPキナーゼ・Erkシグナルの亢進が検出された。
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