研究概要 |
われわれは糖尿病網膜症および糖尿病黄斑症の遺伝因子の解析を行ってきた。まず、血管新生のみならず血管透過性亢進をもたらす血管内皮増殖因子(VEGF)に注目し、2型糖尿病において5'非翻訳領域のC(-634)G多型と網膜症との有意な関連を見出した(Diabetes 51:1635-1639,2003)。さらに、国際共同研究により、VEGF多型は筋萎縮性側索硬化症(ALS)とも関連することを見出した(Nat Genet 34:383-394,2003)。また、C(-634)G多型は原因不明の炎症性疾患である側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)(J Rheumatol 30:2160-2164,2003)および乾癬(J Invest Dermatol 122:209-15,2004)との関連が報告された。機能的にも、VEGF多型は血中VEGF濃度と関連し、in vitroでの転写活性に影響をしていた。C(-634)G多型は、VEGF遺伝子の翻訳開始位置にも影響し、large VEGF isoform (L-VEGF)の形成を通じて疾患感受性に関与することが示唆された。さらに最近、われわれは黄斑症の発症にVEGF多型が関与することも認めた。われわれは、ALR2、eNOS、MTHFR、PEDF(血管新生抑制因子)、TGF-β1の各遺伝子についても検討した。ALR2遺伝子については網膜症・黄斑症との関連が示唆され、eNOS遺伝子については、27bp繰り返し多型およびT(-786)C多型が網膜症には関連しないものの黄斑症とは有意に関連していた(Diabetologia 46[Suppl 2]:A12,1993)。27bp繰返し配列多型あるいはそれと強い連鎖不平衡にあるT(-786)C多型は機能的にはeNOSの発現低下への関与が報告されており、内皮細胞から産生されるNOの低下が黄斑症に関与することが示唆される。
|