神経栄養因子であるBDNF(brain-derived neurotrophic factor)以外に、GDNF(glial cell-derived neurotrophic factor)をもちい、生体系および培養系にてその効果を検証した。成熟ラットをネンブタールで深麻酔後、脳定位固定装置にて頭部を固定、開頭し、両側の四丘体上丘に少量の蛍光色素(DiI、fluorogold)を注入した。その後、実験動物を約10日間飼育した。この蛍光色素は上丘において取り込まれ、視索・視神経すなわち網膜神経節細胞の軸索を逆行性に運ばれたのち、網膜神経節細胞の細胞体を生体標識できた。 GDNFの遺伝子を分子生物学的に修飾し、DiIにて標識したラットの硝子体腔に注入し、すでに我々が報告したelectroporation法にて網膜内層の細胞に遺伝子導入を図った。結果、網膜内層にある網膜神経節細胞にGDNF遺伝子が取り込まれ、GDNFのタンパク合成が確認できた。ラットの視神経を切断することで、GDNFの導入が神経細胞死にあたえる影響を検討したところ、GDNFは軸索切断後の神経細胞死を明らかに抑制することがわかった。 我々がすでに報告しているcollagen培養法により網膜神経組織を培養した。一定の条件を保つことにより神経突起の再生を得た。これらの方法により現在では神経組織、再生突起ともに数週間の生存が可能である。この方法では生体観察系に比べ、経時的に網膜神経細胞からの突起再生を直接顕微鏡下に観察、記録することができるという利点がある。培養液にBDNFおよびGDNFを添加し、その細胞死抑止効果および神経再生促進効果を経時的に観察、検討した。この実験系では、網膜神経節細胞は軸索切断により変性、細胞死を生じる。この網膜を蛍光顕微鏡にて観察し、標識細胞数を経時的に計測し、上記、生体系とほぼ同様の結果を得た。
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