【目的】羊膜をはじめとする胎盤組織に多く発現しているHLA-Gの機能は最近まで不明であったが、NK細胞の抑制レセプターとHLA-Gが結合してNK細胞の活性が低下すること、妊娠中はNK細胞表面にHLA-Gと結合する抑制レセプターがより多く発現していることが報告され、semi-allo組織である胎児が母体のNK細胞の攻撃を受けないように母体の拒絶反応から胎児を保護することが明らかとなってきた。また、心臓移植を受けた患者の生検組織や末梢血中にHLA-Gが発現している場合、移植生着が良好であることが報告されている。これらのことから羊膜と角膜移植または輪部移植とを組み合わせることで拒絶反応を抑制している可能性が考えられる。前年度は羊膜を基質とした培養角結膜上皮に対する免疫応答を明らかにするために、胎盤組織で発現しているHLA-Gの発現と羊膜の有無による発現の変化を調べたが、本年度はさらに羊膜を基質とした培養角結膜上皮に対する免疫応答を明らかにするために、角膜輪部上皮由来のHLA-G mRNAをK562細胞へ発現させ、HLA-Gの機能について、NK細胞の細胞障害性を用いて検討を行った。 【方法】角膜移植後のドナー角膜輪部から、上皮を酵素処理により分離し、mRNAを抽出した。HLA-Gをクローニングし、GFPベクターに組み込み、赤白血病細胞由来株のK562(MHC class I-)に遺伝子導入した。HLA-G発現による影響を見るため、ヒト末梢血から分離したNK細胞の細胞障害性試験をBrdU release assayを用いて検討した。 【結果】クローニングしたヒト角膜輪部由来のHLA-Gの配列はすでに報告されている配列と99%一致していた。HLA-Gを遺伝子導入したK562(K562-HLA-G)においてRT-PCRにおいてその発現を確認する事が出来た。K562-HLA-Gに対するNK細胞の細胞障害性はベクターを導入したコントロールと比べて有意な差は認められなかったが、傾向として障害性の減少を示していた。 【結論】羊膜は角結膜上皮におけるHLA-Gの発現を増加させることにより、術後の炎症や免疫反応を抑制している可能性が考えられた。
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