研究概要 |
我々は、網膜剥離手術後の治癒過程における、網膜色素上皮細胞と感覚網膜の接着に関する機序解明の研究を行っている。対象となる分子は、感覚網膜層と色素上皮層間の生理的接着剤の構成基質の一部と考えられる分子SPACR(Sialo-Protein Associated with Cones and Rods ; Zako et al., J Biol Chem.2002)である。その後の研究から、同部位に発現する生理的接着剤として、SPACR類似分子であるニワトリSPACRCANを新たにクローニングした(投稿準備中)。本分子は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンであるが、既に報告されたヒトSPACRCAN(Acharya et al., J Biol Chem.2000)とは違い、パートタイムプロテオグリカンであると判明した。SPACRとSPACRCANのオリゴ糖鎖の解析の結果、興味深い事に、これらは、同一の糖鎖構造を共有する事を見つけた(投稿準備中)。蛋白構造が違う類似分子が、同一の糖鎖を持つことを、我々は別の分子でも証明しているが(Zako et al., J Biol Chem.2003)、同様にSPACRとSPACRCANでは、共通のオリゴ糖鎖を用いて、感覚神経と色素上皮の接着を促しているという仮説に至っている。一方、SPACRの発現が発生後に増加し続けるのに対し、SPACRCANは、網膜形成時には増加するものの、発生後は減少する事を発見した。我々は、以前にバーシカンというプロテオグリカンが、網膜の視神経線維層の形成時の胎生期には、多くのコンドロイン硫酸を発現するも、固体発生後は、発現抑制する事を示したが(Zako et al., J Neurochem.1997 : Zako et al., J Biol Chem.1997)、今回の知見との類似性を感じる。現在、SPACR、SPACRCAN、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、さらにヘパラン硫酸の結合性を考慮し、網膜色素上皮細胞と感覚網膜の接着に関わる視細胞外マトリックス構築の解明に研究を進めている。
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