次に新生児ラット肝細胞および胎児ラット肝細胞を高濃度酸素および低濃度酸素に暴露し、β-カテニン遺伝子の変異が誘導されるか否かに関し検討をおこなった。同時にβ-カテニン蛋白の細胞核への蓄積についても検討した。β-カテニン遺伝子の変異はDNAのdirect sequencing法を用い、またβ-カテニン蛋白の核内蓄積については免疫染色で検討した。しかし、あらゆる暴露条件においてもβ-カテニン遺伝子の変異やβ-カテニン蛋白の核内蓄積を確認することはできなかった。 さらに胎児ラット肝細胞を用い酸化ストレスが肝細胞分化関連遺伝子の発現に与える影響を検討した。胎齢18日のラット肝細胞を低濃度、高濃度、低濃度後に高濃度の酸素を曝露する各条件下で培養し、α1AT、HNF4、AFP、albuminの各遺伝子発現の変化を観察した。その結果、胎齢18日ラットの肝細胞ではAFPの発現が経時的に減少するのに対し、酸化ストレス下ではAFPの発現が高レベルに保持される傾向が窺えた。この結果は酸化ストレスが未分化な肝細胞の分化を抑制しAFPの高発現を維持したか、あるいは直接にAFPの発現を亢進させたものと考えられ、酸化ストレスが未分化な肝細胞の分化に影響を与えること、その結果として最終的に発癌、腫瘍化の原因となり得る可能性を示唆するものと考えられた。
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