神経因性膀胱及び低容量膀胱の治療には、従来より腸管利用膀胱拡大術が施行されている。しかしながら、腸管粘膜が尿に接触することに由来する術後合併症が問題となっており、必ずしも満足のいく結果が得られていないのが現状である。過去に、新生仔ラット膀胱を血管吻合を用いずにレシピエントラット大網に同系移植し、移植片が生着し得ること、さらに、同種移植モデルを用いた検討で、免疫抑制剤(FK506)投与により、膀胱移植における拒絶反応が十分コントロール可能であることを確認した。 今回は、以下の実験を計画した。 イ、livig-related transplantationの可能性を念頭に入れ、成獣ラット膀胱を移植片とした膀胱移植において新生仔の膀胱を用いた時と同様の生着率が得られるか否かを検討する。 ロ、移植膀胱利用膀胱拡大術群および回腸利用膀胱拡大術群を作成し、長期経過観察後の発癌を含めた合併症について比較検討する。 I.今年度は、26週齢成獣Lewisラット(ドナー)より膀胱の頭側1/3を部分切除し(移植片)、これを6週齢幼若Lewisラット(レシピエント)の大網に同系移植した(living-related transplantation ; n=15)。移植後2週目にレシピエントを開腹したところ、全例において移植片は生着し、膀胱拡大術に利用可能であった。更に4週後、全例において、縫合不全及び吻合部狭窄等の合併症を認めず、摘出した新生膀胱の病理学的検討において粘膜、粘膜下層及び筋層のいずれにおいても異常所見を認めなかった。 以上から、成獣ラット膀胱を移植片とした移植膀胱利用膀胱拡大術が可能であることが示唆された。 II.引き続き移植膀胱利用膀胱拡大術群および回腸利用膀胱拡大術群において、長期経過観察後の結石形成の有無、膀胱尿管逆流現象の有無、腎機能障害の有無、発癌または前癌病変の有無等の合併症について比較検討していく予定である。
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