上皮系組織が他の臓器再生より専行している理由として、厳格なScaffoldを必要としない2次元的な組織であるという構造上の利点と他の臓器にくらべ解剖学的にも単純である事等が考えられる。同時に表皮細胞に関しては、毛根内に体性幹細胞の存在が明らかになっておりその幹細胞採取が比較的容易である事もその理由である。我々は、既に500例以上の培養表皮移植を広範囲皮膚欠損患者に応用しているが、得られた再生表皮は、移植のためにシャーレ底面から剥がさねばならない。一般的にはディスパーゼと呼ばれる蛋白分解酵素を用いて、シャーレ底面から剥離し、剥離したシートをシャーレと同じ形に採型したキャリアにのせて移植に用いる。再生表皮シートの成功の可否はこの剥離作業で決定される。しかしいずれにせよこれらキャリアは生体にとっては異物であり、最終的には除去する必要がある。従ってキャリアを生体材料に求めれば、この問題は解決される。そこで、再生表皮シートのキャリアと言う考え方から、表皮のscaffoldとして利用できる生体材料を考案することも重要である。我々は、このscaffoldとしてフィブリン糊の有用性を考案した。しかし本法は、フィブリンscaffoldが、培養中に表皮細胞から産生されるコラゲナーゼや各種蛋白分解酵素によって、消化されてしまい、形態を維持するにはこれら蛋白分解酵素を確実に阻害し続けねばならない。この問題を解決する目的で、フィブリンScaffoldにある種のたんぱく質を混和することで(特許申請中)、表皮細胞由来の蛋白分解酵素の影響を回避し、同時にフィブリン自体の物理強度も上げる技術も開発した。
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