現在管腔保持能として最も安定した物理強度が要求される気管再生の目的には生体高親和性を有するダクロン素材が、再生医療に有用な素材と考えられる。しかしながら、生体高親和性素材と言えども異物である事に変わりは無く、生体素材でScaffoldを構築する事は大変重要である。本試験では、摘出した気管組織を界面活性剤で処理し組織中の細胞を脱落させ、無細胞化を行い(特許出願中)、得られたこの無細胞化気管をScaffoldとして用いて気管再建を試みることで、その有用性を評価した。 1.無細胞化気管の作成 TritonX-100処理によって、気管内の細胞はほぼ完全に除去された。 2.ウサギ無細胞気管植埋後内視鏡所見 頚部気管への植埋によって、無細胞気管は充分な管腔保持能を有していた。しかしながら、28羽のウサギ頚部気管の置換により最大60日、最短14日間の生存が得られたが、死因は頚部気管の感染であった。 3.イヌ無細胞気管植埋後内視鏡所見 気管植埋によって、ウサギ同様無細胞気管は充分な管腔保持能を有していた。またウサギと異なり血行も充分であり、再生気管としての機能を充分果たしていた。死亡例も含め2ヶ月をメドに全例を屠殺し、肉眼所見ならびに組織学的検討を行った結果、無細胞気管への細胞侵入と結合織増生による管腔形成と気管内腔への気管上皮細胞の伸展が全例に認められた。一部、無細胞化が不十分であったと考えられる無細胞気管の植埋によって、免疫拒絶と思われる急性期拒絶が2例に3週間目に認められた。これらのイヌは、不良肉芽増生が著明であった。今回の検討に於いては、気管が限定されていたため長期結果を見ていないが、2ヶ月程度の観察期間では、増殖因子導入、細胞導入による明確な差は認められなかった。しかし、細胞導入による有害事象は全く認められなかった。植埋2ヶ月後の気管の肉眼所見で見ても分かるように、無細胞気管の管腔保持は明らかであった。
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