平成15年度は、ヒト鼻中隔軟骨細胞のin vitro環境下における軟骨形成能を調べる目的で、PCR法を用いてtype II collagenの遺伝子発現を検討した。培養条件では、(1)従来の静置培養、および(2)Bioflow reactorを用いた回転培養の2つの条件を設定した。その結果、静置群に比較して、in vitro環境下の遺伝子発現はBioflow reactorを用いた回転培養群においてup-regulationされていた。また、Bioflow reactorを用いた回転培養群では、培養2週目に最大のtype II collagen-mRNAの遺伝子発現が認められた。この結果より、細胞・ポリマー複合体をin vivoへ移植する上で、回転培養はより分化段階の高い軟骨細胞を供給しうる可能性が示唆された。また、至適な移植時期は、細胞外基質の産生シグナル(type II collagen)が最大となる、培養後2週間と考えられた。次に、平成16年度は、イヌ耳介軟骨細胞・ポリマー複合体をin vitroにて約2週間、回転培養した後、ヌードマウス皮下に移植した結果について検討した。さらに、in vivo環境において、再生誘導を加速する目的で、サイトカインを投与(bFGF)し、再生軟骨組織を早期に再生させる技術の確立を目指した。サイトカインの投与に際して、ゼラチン粒子を用いた徐放化b-FGFを用いて、軟骨再生への促進効果を検討した。その結果、ゼラチンを用いることにより、b-FGFは2週間以上の期間に渡り局所に残留した。イヌ耳介軟骨細胞・ポリマー複合体と同時にb-FGF含有ゼラチンを投与した場合、軟骨の形状は良好で、異調染色性および周囲組織の血管増生が強く、軟骨マーカーのII型コラーゲン、血管マーカーの第8因子関連抗原の遺伝子発現が観察された。一方、b-FGF含有ゼラチンを4日前に投与した場合は、弱い血管増生は生じたものの軟骨の形状は乱れ、細胞配列も不規則で異調染色性も弱く軟骨細胞のアポトーシスが観察された。以上により、徐放性b-FGFが新生血管の誘導、軟骨の再生することが明らかになった。また、b-FGFの前投与は軟骨の再生を抑制する可能性が示唆された。
|