研究概要 |
Dentin matrix protein 1 (DMP1)は、組織中で強く負に荷電し、石灰化と密接に関連している酸性ホスホ蛋白質の1つである。最近、我々はDMP1が骨組織中の骨細胞や前骨細胞により特異的に産生されるが、骨芽細胞ではその産生は見られない事を明らかにした。骨細胞は骨の至る所に存在しているが、真の機能は明らかではなく、骨細胞に特異的に産生されるDMP1機能の解明が骨細胞の機能解明につながると考えられる。我々はtypeIコラーゲン・プロモーターを用いてトランスジェニックマウスを作製し、マウスの骨全体にDMP1を蓄積させて、骨組織におけるDMP1の影響を検討した。その結果、DMP1は骨の石灰化速度を促進する機能を有する事が明らかとなった。以上の結果から、骨細胞はDMP1を特異的に産生し、骨の石灰化をコントロールしている事が示唆された。 骨折の治癒過程におけるDMP1の機能を検討するため、DMP1の発現・分布を検討した。DMP1mRNAは、骨細胞特異的に発現しているが、多数の骨細胞が急速に骨基質に取り込まれ、高率にDMP1蛋白質を産生するため、新生骨全体にDMP1が蓄積していることが分かった。また、軟骨基質にもDMP1蛋白質の分布が認められ、DMP1遺伝子発現も確認されたが、このDMP1産生細胞は骨細胞系のマーカーあるtypeIコラーゲン遺伝子発現細胞であることが判明した。ゆえに、軟骨基質に認められたDMP1産生細胞は、血管侵入に伴って軟骨基質内で分化した骨芽細胞系の細胞であり、軟骨細胞はDMP1を産生しないと考えられた。以上の結果から、DMP1はオステオポンチンなどの他の細胞外基質とは異なり、その発現が非常に安定して制御されていることが分かった。さらに、ノーザン・ブロットの結果から、治癒過程の急速に石灰化が起こる時期に一致して、DMP1が産生され、その後、急速に分解される事が分かり、石灰化促進との密接な関係が示唆された。 次に、骨折の治癒過程におけるDMP1の有効性を検討するため、既に作製したDMP1-トランスジェニックマウスにおける骨折の治癒過程を検討した。骨折2,3,4週間後とX線解析にて検討を行ったが、野生型とDMP1-トランスジェニックマウス群の間に有意な変化は認められなかった。組織学的にも有意な差は認められなかった。これは、骨折の治癒過程では野生型マウスでもDMP1が多量に産生されるので、トランスジェニックマウスとの有意差が現れなかったのではないかと考えている。さらに、DMP1は骨細胞周囲に分布することにより、骨の石灰化のコントロールをすると推察されるが、骨強度が低下するラットの骨粗鬆症モデルを作製し、病態におけるDMP1蛋白質の状態を検討したが、骨組織におけるDMP1蛋白質の分布パターンの変化には有意な差は見られなかった。
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