研究概要 |
蛋白質脱リン酸化酵素1δ型(PP1δ)は核小体に3-7個のドット様構造物として認められる37kDaの蛋白である。この細胞内分布は硝酸銀により検出されるNucleolar Organizer Regions(AgNORs)及びその構成蛋白のひとつであるニュークレオリンの細胞内局在と一致している。我々はAgNORsとニュークレオリンの細胞内変化に注目して,アポトーシスによっておこるこれらの蛋白の変化を調べた。正常細胞では,核小体にPP1δの局在と類似するニュークレオリンが検出されるが,アポトーシス細胞では,この構造物は分解されて検出されなかった。この物質を同定するために,我々はオカダ酸処理アポトーシス細胞から蛋白を調製し,SDS-PAGEを行い分離した蛋白を抗ニュークレオリン抗体を用いてウエスタンブロットを行った。アポトーシス細胞では分子量110kDaの蛋白の発現量が減少し,逆に分子量80kDaの蛋白が新たに出現し,その発現量は増加した。このことは,アポトーシスによりニュークレオリンは分解されて80kDaの蛋白に断片化されることを意味している(Kato et al. 1993)。PP1δに特異的な2本鎖RNAを合成し,HEK-293細胞に導入すると,この細胞ではPP1δのmRNAと蛋白の発現が阻害された。ところが,PP1αとPP1γ-1の発現は阻害されなかった。HEK-293細胞の細胞抽出液は2本鎖RNAを分解するが,ヒト骨芽細胞の抽出液は分解しなかった。さらに,HEK-293細胞ではRNA分解酵素Dicer,が強力に発現していたが,ヒト骨芽細胞MG63細胞における発現は弱かった。このことはPP1δのRNAiがHEK-293細胞では起こるが,骨芽細胞では起こらないことを意味している (Morimoto et al. 2004)。
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