研究概要 |
これまでに下顎突起における軟骨の分化と形態形成に関与する因子に関してはEGF,TGF-αなどの増殖因子が知られ、それらの転写因子制御に関する知見は乏しかったが、軟骨の細胞分化の初期に関与するSox9は下顎突起においてBMP4によって誘導されることが我々の実験で明らかになった。一方、Msx2は筋の分化に関してMyoDなどの発現を制御して、細胞分化に抑制的に働くと考えられているが、軟骨の分化に関してもSox9と拮抗的に働き、細胞分化を抑制していることがこれまでの実験で推測された。 歯牙の発生位置の決定に関しては上皮におけるBMP4およびFGF8の拮抗的発現を間葉に発現するPax9が制御し、将来の歯牙の形成部位を決定すると考えられており、このような歯牙の発生部位と軟骨や筋が形成される部位は初期にはほとんど重複しているが、それらの相互関係に関しての知見は未だ見られないものの、身体各所で発生時に時期的に共通する機構を上位で調節する機構の存在についての仮説を持つ事が出来た。 これまでに舌筋の発生に関与する因子としてTGF-αがMyoDやmyogeninの発現を促進し、筋細胞の分化に促進的に働いていることが判ったが、その部位特異性やMsx2など抑制因子との関連に関しては未だ不明である。 今後さらに下顎突起における多種類の遺伝子転写因子の発現パタンを時間空間的に位置づけながら観察する必要があり、発生時期依存的な全身的調節機構の仮説の証明と共に、個々の器官形成系の特徴も同時に解明されなければならないが、器官培養系における遺伝子発現抑制には手技的な困難性が大きく、今回の研究でも完全にコントロールできたとは言い難く、更なる改善が必要である。
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