1.ビリン発現の普遍性 哺乳類から魚類まで全ての脊椎動物の味蕾にビリンが発現するか、以下の動物について免疫組織化学によって検索した。〔実験動物:ラット、モルモット、マウス(哺乳類);カメ、トカゲ(爬虫類);カエル、イモリ、サンショウウオ(両生類);ドジョウ、コイ、ナマズ(魚類);メクラウナギ(無顎類)〕その結果、使用した全種類の味蕾にビリン陽性細胞が確認された。 2.ビリン発現細胞のシグナル伝達分子発現 主にラットとモルモットの味蕾について蛍光二重免疫染色法によって、さらに詳しく調べた。その結果、ビリン陽性細胞の大部分は、これらのシグナル伝達分子に免疫陽性反応を示した。特に、IP3R-3陽性細胞はビリン陽性細胞と完全に一致した。したがって、哺乳類においてもビリン陽性細胞は味受容細胞であることが強く示唆された。そこでさらに詳細に、ラットとモルモットの味蕾について、電子顕微鏡レベルでビリンの免疫細胞化学を行いビリン陽性細胞の細胞型を検索した。その結果、両種動物の味蕾で、I型細胞はビリン抗体に陰性であったのに対し、II型およびIII型細胞は免疫陽性反応を示した。I型細胞は支持細胞ともよばれ、神経とシナプスを形成せず味覚受容に関与しない。一方、III型細胞は神経と典型的な化学的シナプスを形成する味覚受容細胞である。II型細胞は長らくその機能が不明であったが、苦味受容体(TR2)に共役する3量体Gタンパク質のαサブユニットであるgustducinを発現することが、最近になって明らかにされた。従って、II型細胞も味覚(苦味)受容に関わることになるが、神経との間に典型的な化学的シナプスは見られないことなど、この細胞を受容細胞とするには未だ不明な点が幾つか残されている。
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