研究概要 |
最近,cADPR合成に関与するとされるCD38を欠く好中球は感染部位に遊走できなくなるため細菌感染を起こし易くなること,この時Ca^<2+>シグナルが抑制されることも明らかにされた.しかし,好中球におけるCD38/cADPR系の役割は明らかではない.本研究は.ヒト好中球におけるcADPRのCa^<2+>動員の分子機構及びその好中球活性化における役割について検討し以下の結果を得た. 1.fMLPは急峻で一過性の上昇とそれに引く持続性した細胞内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]i)上昇を引き起こした.この上昇はcADPR阻害薬8Br-cADPR及びFK506,rapamycinにより抑制された. 2.ヒト好中球にRyR2,RyR3,FKBP12,FKBP12.6のmRNA発現を認めた. 3.膜透過性とした好中球でcADPRはCa^<2+>遊離を引き起こし,この作用は8Br-cADPR, FK506,rapamycinにより抑制された. 4.fMLPによる好中球の遊走活性は8Br-cADPR, FK506,rapamycinにより抑制された. これらのことから,fMLPによりcADPRが産生され,FKBPに作用してCa^<2+>動員を引き起こし,遊走に関与することが示唆された. 5.細胞外へのβ-NAD^+の添加は一過性[Ca^<2+>]i上昇を引き起こし,cADPRはfMLPの[Ca^<2+>]i上昇を増強した. 6.fMLP及びβ-NAD^+による[Ca^<2+>]i上昇は抗CD38抗体,NADase処理により抑制された. 以上から,CD38細胞外活性部位においてβ-NAD^+からcADPRが合成され細胞内に運ばれることが示唆された. 本研究成果は,好中球活性化における新しい情報伝達機構ならびに生理・病態生理的役割解明の一助となると期待されるとともに,新しいタイプの炎症・免疫関連薬物開発の標的分子としての可能性を示唆するものである.
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