テタヌス毒素は神経伝達物質の放出に関与するVAMP-2を加水分解し、神経伝達物質の放出を停止させるが、VAMP-2ノックアウトマウスでも脳神経の形成・発達は正常に行われることから、神経突起の伸張に関わる開口分泌にはテタヌス毒素非感受性のVAMP (TI-VAMP/VAMP-7)の関与が示唆されている。開口分泌におけるTI-VAMP/VAMP-7の役割を明らかにするため、まず、VAMP-2、VAMP-7、VAMP-8のGFP融合タンパク質をヒト唾液腺由来の培養細胞であるHSY細胞と神経内分泌系のモデル細胞として広く用いられているPC12細胞に発現させ、それらの発現部位と動態を共焦点レーザー顕微鏡を用いて比較検討した。同時に、分泌過程の可視化と定量化のため、ヒト成長ホルモンとそのGFP融合タンパク質を同じ細胞に発現させ、分泌量をELISA法で測定するとともに分泌顆粒の動態を観察した。さらに、各VAMPタンパク質とヒト成長ホルモンを共発現させ、局在部位の異同と分泌への影響を解析した。これまでに得られた研究成果を以下に箇条書きで示す。 (1)VAMP-2、VAMP-7、VAMP-8のGFP融合タンパク質は、HSY細胞、PC12細胞においてそれぞれ独自の発現パターンを示し、各VAMPタンパク質の機能が異なることを示唆した。 (2)ヒト成長ホルモンは、HSY細胞では構成的に、PC12細胞においては調節性に分泌され、分泌顆粒の活発な動きが観察された。 (3)ヒト成長ホルモンを含む分泌顆粒膜は、HSY細胞ではVAMP-7を、PC12細胞ではVAMP-2を発現していた。 (4)これらの結果から、HSY細胞の構成的な分泌にVAMP-7が何らかの役割を果たしていることが示唆された。
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