舌の味細胞は約10日間の寿命しかなく、味蕾内ではつねに味細胞のターンオーバーが生じている。そのため、味細胞と味神経間では常に古いシナプスが消失し、新しいシナプスが形成されている。本研究の目的は、このような動的なシナプス形成環境において、味情報のコーディングがどのような形式で行なわれているかを知ることであり、そのために個々の味神経ニューロンの活動を、味細胞の寿命をこえる長期にわたって記録し、そのニューロンが伝える味覚情報がどのように変化するかを調べた。単一ニューロンからの長期記録を実現するために、Sieve電極という、多孔性の微小電極アレイの製作をミシガン大学と共同で行なった。今回の改良では特に金属電極の材質を変更し、従来は金蒸着に金メッキを行なっていたものを、イリジウムに変更した。この改良によって金属電極部の強度が増し、ポリイミド基板から金属が剥離しにくくなった。 このSieve電極をラットの鼓索神経に埋め込んで実験を行なったところ、電極孔を通過して再生した味神経ニューロンから、味刺激に対する応答を記録することに成功した。そのうち、単一ニューロンの記録には数例しか成功しなかったが、いずれの記録においても各味溶液刺激に対する応答の特性は、数日にわたる記録期間中に変動を示した。また、膝状神経節における味神経ニューロン細胞体の分布と形態学的な特徴を調べ、生理学的実験結果との関連性について検討した。
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