味覚神経における情報コーディングの動的特性を研究する目的で、マイクロマシン工学で作成したSieve電極をラットの鼓索神経に慢性的に埋め込み、味覚神経線維からの長期記録を試みた。 研究は、ミシガン大学から提供を受けたSieve電極を用いて行なった。本研究の目標のひとつは、Sieve電極を改良して神経活動の記録の成功率を上げ、さらに記録期間の長期化を実現することである。従来の電極の問題点は電極記録部位表面のコーティング金属(金)が剥離することであったが、この問題はコーティング金属をイリジウムに変更して強度を増すことで改善された。 改良された電極を用いて、味刺激応答を示す弁別可能な単一味神経線維からの記録を行なうことが出来た。記録期間は、数日から数週間であった。記録されたすべてのみ神経線維について、時間依存性の味応答特性の変動がみられた。しかしそれらは従来の四基本味(あるいは五基本味)Labeled Line(専用ライン)仮説に基づく味神経線維の型の間を越えるものではなかった。一時的に分類の型をはずれる応答がみられる場合もあったが、それは味刺激に対する応答全体が低下した場合に限られた。さらに、例えばNaベスト線維にみられた変動はHCIベスト線維にみられる変動よりも大きく、このことからも今回の研究の結果は、Labeled Line仮説にもとづく味覚情報のコーディング理論の正当性を支持するものとなった。一方、専用ライン仮説に対立するAcross Fiber仮説に対しては、その仮説の正立が各味神経線維の応答特性の不変を前提とする必要があることから、本研究の結果はその正当性を否定するものであった。 味神経線維の機能的分類は、結局は膝状神経節における感覚ニューロンのタイプおよびサブタイプの存在を明らかにする研究に帰着する。したがって今後の研究は焦点を膝状神経節に移行し、本研究の成果を生かした研究を続行していく計画である。
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