ヒトパピローマウイルス16型(HPV-16)および18型(HPV-18)は、子宮頚癌の主な原因と考えられているが、口腔癌の一部の発症に深く関与する。HPV関連腫瘍においてこれらのウイルスの有するE6およびE7癌遺伝子の発現が必ず見られ、癌化とその維持にこれらの癌遺伝子の発現は必須であることから、遺伝子標的治療の理想的な候補である。これまで多くの研究者によってHPV関連腫瘍の治療方法開発を目的としてアンチセンスオリゴDNAやリボザイムなどの方法が試みられてきた。しかし、特異性、導入方法、抑制効率等さまざまな問題によりいまだ実用化には至っていない。 最近、21塩基の2本鎖RNAをほ乳類細胞に導入することにより、この配列に相補的な構造を持つmRNAを特異的に分解し、これによって任意のmRNAの発現をknock-downする(siRNA)ことが可能になった。このsiRNAをHPV関連腫瘍の治療に応用するための基礎研究として、我々は、E6 siRNAのこれらの癌遺伝子の発現に及ぼす効果と、HPV関連腫瘍の増殖に及ぼす効果を解析した。 我々は、HPV16のE6およびE7の発現を抑制するためにこれらの癌遺伝子産物をコードするmRNAに共通の配列をターゲットとしたsiRNA (E6-3)を合成した。E6-3 siRNAは、COS-1細胞を用いた一過性発現系においてFLAGタグE6の発現を特異的に抑制した。またHPV16陽性腫瘍細胞株であるSiHa細胞においてもHPV16 E6およびE7をコードするmRNAレベルを1/3に抑制した。このようなE6およびE7の発現抑制は、p53レベルの増加、Rbの低リン酸化を伴っていた。また、E6-3 siRNAは、SiHa細胞の単層増殖、軟寒天培養におけるコロニー形成能、NOD/SCIDマウスにおける腫瘍形成能を特異的に抑制した。 以上より、HPV16 E6 siRNAは、HPV16関連腫瘍のE6およびE7癌遺伝子の発現を抑制することにより、細胞の増殖と造腫瘍性を抑制できることが明らかとなった。今後、さらにin vivoでのHPV16関連腫瘍の増殖抑制を達成するために、腫瘍細胞へのsiRNAおよびshRNA発現プラスミドの導入の効率よい導入方法を検討中である。
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